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広島地方裁判所 昭和39年(ワ)886号 判決

原告 株式会社ラジオ中国

被告 ラジオ中国芸能員労働組合

主文

被告は原告に対し、別紙目録記載の建物を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。

一、原告はテレビ、ラジオの放送事業等を営む会社であり、被告はかつて原告との間に締結されていた出演契約により原告の放送番組に出演していた芸能団員をもつて組織されている労働組合であるが、原告は昭和三七年七月一〇日被告に対し別紙目録記載のタレント控室を、その一隅に組合事務所を設ける目的で、期間の定なく無償貸与した。

二、原告は昭和三九年四月一日以降右芸能員との出演契約を解消したので、被告に対し右タレント控室の明渡を求めたが、被告はこれに応じないのみならず、右控室を独占的に占拠し原告のタレントの控室としての使用を妨げている。

よつて、原告は被告に対し右タレント控室の明渡を求めるため本訴に及んだ。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、事実に対する答弁及びその主張として次のとおり述べた。

一、請求原因一の事実は認める。同二の事実中原告が本件タレント控室の明渡を求めたことは認めるが、被告が右控室を独占的に占拠したことはない。

二、被告組合の構成員である芸能団員は原告との間の専属出演契約に基づき原告に雇傭されているものであり、原告は昭和三九年四月一日以降右契約を解消したというが、これは不当労働行為ないし解雇権の濫用であつて無効のものであり、右は本件使用貸借契約解約の理由とならない。

三、本件明渡請求は被告の正当な組合活動を理由とするもので不当労働行為であつて無効である。また原告と被告組合所属の組合員との間で現在前記解雇の当否をめぐつて争訟中であり、このような時期における本件明渡請求は権利の濫用で許されない。

理由

原告が昭和三七年七月一〇日被告に別紙目録記載のタレント控室を組合事務所を設ける目的で期間の定めなく無償貸与したことは当事者間に争いがなく、原告が昭和四〇年一月二一日被告に到達した本件訴状により被告に対して右控室の明渡を求めたことは記録上明らかであり、右明渡請求は本件使用貸借契約解約の意思表示を含むと解するを相当とする。ところで、被告は右解約は不当労働行為ないし権利の濫用で無効であると主張するが、右使用貸借は、労働組合法第七条第三号により原則として禁止された組合に対する援助を、その但書によつて例外的に認められる事務所の供与であると解されることからして被告の組合員と原告との間で雇傭関係の存否をめぐつて現在争訟中であるとしても、右解約が不当労働行為ないし権利の濫用に当るとは解しがたい。

そして、前示事実によれば被告は本件タレント控室の貸与を受けて以来これを組合事務所として使用をなすに足るべき期間使用していたものと認められるから、本件使用貸借契約は昭和四〇年一月二一日をもつて有効に解約されたものというべく、被告は原告に対して、本件タレント控室を明渡す義務がある。

よつて、原告の本訴請求は理由があるから認容すべく、民事訴訟法第八九条、第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川茂治 雑賀飛龍 河村直樹)

(別紙省略)

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